栃尾克樹さんの詩情豊かなリート

MCで「ピアノの後奏がとても美しく、この曲集の聴きどころです!」とプレッシャーをかけられましたがまったく聞かなかったことにして「美しい5月に」を弾き始めました。"Im wunderschönen Monat Mai" Im からwunderにかけてのアウフタクトの曲線の柔らかく美しいこと。Monat Maiは空気のようにすっと消えていきます。有節歌曲ではないですが、何度も同じ旋律が繰り替えされます。歌詞があれば自ずと変わっていきますが、演奏のたびに自然と詩が生まれてくるように変化していきます。

"Aus meinen Tränen spriessen" アウフタクトのAusは涙があふれでそう。韻も聞こえてきます。とても繊細。"Die Rose,die Lilie,die Taube,die Sonne" あのスピードでことばがきれいに聴こえるのはなんでだろう。生き生きと走り抜けた。

"Wenn ich in deine Augen seh"最初の和音からWennへのタイミングが絶妙でうれしくなります。恋で浮きあがっている状態がよくわかる。

"Ich grolle nicht" わたしは恨まない、と言いつつ恋人の心に蛇がいるとか、歌詞は怖いんですけど。バリトンサクソフォーンの音色が苦しみ恨みを歌い上げていくのでぞくぞくしました。音色が豊かとかそんなんじゃないレベルです。

"Hör' ich das Liedchen klingen" 打ちひしがれた詩人ががっくりと膝をついてかのような音。

"Ich hab' im Traum geweinet" わたしは夢で泣いていた、geweinetの二重母音が泣いているよう。

"Die alten,bösen Lieder" ピアノはダクテュロス(長短短格)を繰り返すのです。ダクテュロスの効果がよくわからなかったですが、今回本番で演奏してみてああなるほど、と思いました。抗えない運命とか宿命とかにぴったりくるやんね。棺桶をライン川に放り込むと、ゆっくりと水底に沈んでいくような"Wißt ihr,warum der Sarg wohl So groß und schwer mag sein?"のあと天にのぼっていくような"Ich senkt' auch meine Liebe"そして絞りだすようなhineinからの後奏。音型がL.クープランのノンムジュレのプレリュードに似ているのでそのつもりで練習していた。しといてよかったと思います。栃尾さんのあのhineinからやったら繊細に弾くしかないもの。

で、「詩人の恋」の名演のあとに演奏したコダーイの「アダージョ」が圧巻でした。栃尾さんは「詩人の恋」で終わりたいようなことを言ってましたが、そうはさせない!わたしのピアノの後奏でコンサートを終わるわけにはいかないです。楽器を縦横無尽に鳴らすコダーイの「アダージョ」が最後です。それでほんとうによかったと思う!!感動的でしたもん。

そんなわけで、覚えているうちにコンサートの記録を書き留めておきます。

2024.8.18 きたまち茶論コンサートより「詩人の恋」

2024.8.18 きたまち茶論コンサートより「アダージョ」

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